番外編#6【びっくりハウスへの訪問】
PMSということで過去のイライラ体験が走馬灯のように駆け巡り吐き気がする。
不倫相手と再婚を果たした父が、
その不倫相手との新しい家に私を招いた。
無神経極まりない、頭おかしいな、私の父。
と思いながらも、
良い子で通っている私はヘラヘラと笑い「はい」と頷きその家へ行くことになった。
どんなに良い子でいようと思っても、身体のどこかはしっかり拒否反応を示して、
その日の朝、歯痛におそわれ病院へ。
家に行くのが1時間ほど遅れると父にメールを入れた。
そしてその決して踏み入れたくない場所に私は「お邪魔します」ときちんと靴を揃えて入る。
三匹の猫がいるというのを知っていた。
だからそれを理由にマスクをしていたけど、
「さすがに失礼だろう」と父に叱られたため玄関前で外して、入る。
「いらっしゃい」とそれはもう明るい笑顔の奥さんに迎えられた。
私の家へ毎日50回以上の無言電話をかけてきて、母をギリギリのところまで追い詰め、
小学3年生の私を抜毛症にした人、
こんな顔してたんだ。
私に笑顔を向けられるって、
この夫婦はある意味狂ったもの同士とてつもなくお似合いなのねと妙に納得。
そのあとの会話は、飼い猫の話。
夫婦でハワイ旅行に行きfour seasonsに泊まった話。
ローマでは危うく泥棒に合うところだったという話。
旅行中にお手伝いさんに猫の面倒を見てもらってたけど、どうもお手伝いさんが嫌いみたいで、
お手伝いさんの顔を見ると隠れちゃうという話。
「私、猫好きだから留守の時見に来るよ」
と言ったら、
「お前に任せたら1時間いくら時給請求されるか怖いな」というなんとも皮肉めいた底抜けにつまらない父の冗談で奥さんが爆笑してたっけ。
人生でいちばん無意味な2時間あまりを過ごし、中央線に乗った時には、安堵のため息が身体の奥から出る。
それから数日後、
さすが父、あれだけで終わらせてはくれなかった。
母からメール。
「あなたのパパから、“約束の時間も守れない、今日はごちそうさまでしたのメールもよこさない。どういう育て方したんだ。あれでまともに社会人できているのか”とお叱りの連絡が来たんだけど...」
嘘でしょう。
切なさも母への申し訳なさも怒りも何もかもが混ざって頂点へ達したら、
「ははは」と小さな笑い声になった。
あの家にあった大きなテレビも、
最新の空気清浄機も、
観葉植物も、
床の色も、
窓から見える富士山も、
いまだに吐き気を誘う。
早く、 抜け出さなきゃな。